作家・ライター
シンガポール出身,元気なシングルマザー
鬱々とした陰気な感情を,
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今宵の東京も、田舎者の私をプリンセスにさせてはくれないけれど

昨夜の話。

コンビニでテイクアウトした安っぽい割に美味しいアイスコーヒーを飲みながら渋谷のラブホテル街である円山町を歩いていたら、むっとする匂いが鼻をついた。

 

それは歌舞伎町のものとも、池袋のものとも違う、なんなら私の地元である福岡の繁華街の匂いとも違う。

生臭い気だるさと、とんでもない若い性欲。覇気のない足音と、イソジンか何かの殺菌臭。様々なものが衝突しあって完成する、渋谷の円山町の匂い。

 

そこには東京の汚さ、どうしようもなさが詰まっているようだった。

難しいことはよくわからないけれど、ただひとつだけ確信したのは、自分の子供をあまり歩かせたくない場所であるということだ。

汚い、なあ。

 

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淡いオレンジ色ではなく、青白い蛍光灯の光がツンと目の奥を刺すとき、私は都会にいるのだなあと実感する。

東京タワーはオレンジだけど、スカイツリーは青白い。そういうこと。

 

ここ円山町の光は、どれもこれも青白い。

あたたかみのある光なんてなくて、どれもこれも我こそはと主張する光ばかりだ。それもそのはず、風俗やラブホテルがお互いに主張しあい、どうぞこちらにご来店をと促している光だから、そりゃそうに決まっている。

そんな光によろよろと引き込まれて行く若者を見ていると、希望もクソもないなとにやにやしてしまう。性格が悪いのだと言われても残念ながら事実なので、そう書かざるを得ない。にやにや、してしまうのだ。

 

東京に来れば、もっともっと何かあるに違いない。

 

そう思いながら、いざ来てみれば私たちに課されるのは地方よりよっぽど高い家賃の支払いに追われる日々だけだ。

きらきらとしたファッション雑誌が見せるコーディネートを揃えるお金など、私たちにあるものか。ユニクロやGUをつつきながら、ZARAで要所要所を抑えながら、なんとなくメルカリをスクロールして欲しいものを補う。

 

丁寧にレポートされたYoutuberの新商品紹介を見て、様々なものを買うかどうかの決意をする。誰かにいい商品だと、決めてもらった方が楽チンだ。

考えるのも、決めるのも、案外すべてコストなのだから。

 

東京、ねぇ。

東京。

 

港区女子だの東京カレンダーだの、背伸びしたことは言わない。

パパ活女子?そんなのはどこか遠い世界の誰かの話だろう。

表参道?そんなのは田舎の母親がきたときにでも連れてけばいいだろう。

 

田舎から出て来た私たちのリアルな東京は、私たちに何か夢を見させてくれるわけじゃない。芸能人になれるわけでも、何者かになれるわけでもないことに気づいてしまった東京で、私たちは愚直に生活を営むしかない。

 

そこにあるのはただ、思った以上にごみごみとした人の群れと、節約が頭をよぎる日々と、かすかな憧れと夢、ドブ臭い円山町。

最寄駅から少し歩く自宅アパートと、コンビニのようなスーパー、まいばすけっとを中心に世界はまわる。ただ、それだけだ。

 

それでも私は、また円山町を歩く。

 

この街を歩いていれば何かが変わるんじゃないか、何かを見られるんじゃないか、そんな淡い希望とクソみたいな感情を引き下げて、不器用に東京の海に今日も漂う。

地元に残ったみんなに、私は東京でプリンセスになれたんだよと見せつけたいけれど、こんなドブ臭い街でプリンセスにはなれないので仕方がない。そんな自慢は諦めてしまおう。

 

私が唯一知っているのは、円山町のへんてこな匂いだけ。

 

 

今日もまた東京で私は成り上がれなかった。

 

……でも。明日には。もしかすると、来年には。

だから今日もこんな臭い街を歩きながら、私は青白い光を見つめてツンと目を細める。嫌いになれないんだよね、東京。結局好きなんだよね、東京。

円山町の汚さが、私に走馬灯のように東京の記憶を蘇らせる。いいことも悪いこともあったけれど、結局私がまだ東京に住んでいることが、答えなのだろう。

 

何者にもなれないけれど、何者でもない私として歩ける街は、居心地がいい。それがここ、東京。

ほら田舎者のあなたも来てみたくなった、でしょ。

 

東京家族

東京家族

 

 

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