職業、ゲシュタポ。恋人、ユダヤ人。『わが家の最終的解決法』の壮大なシチュエーションコメディは、今日も世界を愛するみたい



もともと演劇が好きで、ときに劇団用の脚本なんかも書いていたことのある私。どうも、雨宮美奈子です。

 

つい先日、伊予柑さん(夫の前の会社の先輩なんです)からお誘いいただき、アガリスクエンターテイメントさんの第26回公演となる、『わが家の最終的解決』を観劇してきました。

ありがたい!コンテンツフレンズ!(※コンテンツ鑑賞に同伴してくれる人)

 

場所は恵比寿、エコー劇場。その感想について書いていきます。

(ネタバレ含む感想は後半で)

 

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職業、ゲシュタポ。

恋人、ユダヤ人。

 

そんな印象的なキャッチコピーだけで、きっと気になる人も多いはず。結論から言うと最近見た演劇の中で一番集中して鑑賞でき、脚本家の腕の見せどころをたっぷりと堪能できる、純粋に“忘れられない良い作品”でした。

 

ちなみにあいだに休憩を挟んでも「この休憩で足りるの?」と思うほど、長い時間の講演でした。19時に始まったはずなのに、終わって外に出てご飯食べようとしたら22時だった。長い、でも、そう感じなかった。

 

【あらすじ】

1942年、オランダ・アムステルダム。

ドイツから来た男女が幸せそうに暮らしている。誰もが羨む若いふたり。

しかし、彼は周りには隠していた。恋人がユダヤ人であることを。

そして、彼は恋人に隠していた。自分がゲシュタポであることを。

 

 

これは、本当によくぞこんなところに切り込んだなという作品、というのがまず第一印象。ゲシュタポって、お分かりだと思いますが一応解説しておくと、ナチス秘密警察ですよ。重い!

 

純粋に描ききればよかったの「かもしれない」部分を妙に増幅させて、余計なものを足しては笑いに昇華してみせる強さがあるという、設定はシリアスだけど典型的な王道シチュエーションコメディ。

それはつまり、スリルあふれる設定とは裏腹に、開幕から閉幕まで笑いっぱなしのホームコメディでした。結構怒涛のように連続で笑わせにきます。

 

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世界で実際にあった歴史の中でも、史上最大の悲劇のひとつであるホロコーストを背景にしているので、そのシリアスさが笑わせどころを深くさせる構造になっているのですが、

実は私はナチスのシンボルである鉤十字(ハーケンクロイツ)を身につけた人間が舞台に立つと思うだけで(いやポスターで事前になんとなくは分かってはいたけれど!)、やっぱりヒヤヒヤとしていました。(みんなもなりません?つい先日もBNK48の女の子が鉤十字の服を着てるのが拡散されて号泣謝罪してたよね)

 

それぐらい、あの鉤十字のマークの罪は重い。

挑戦しすぎて後から問題にならないのかしら、観客のひとりでしかない私がそう心配になる程やはり重いテーマです。

 

ちなみに少し話が脱線しますが、ナチスがユダヤ人にどんなことをしたのか、について詳しく無い人。いますよね、はい、手をあげて。

そんな人の中で、「歴史の本は読みたく無いけど、ナチスが何をやったか詳しく知りたいな〜どうすればいいの〜?」って人は、ぜひとも手塚治虫大先生のこれを読んでください。漫画『アドルフに告ぐ』は、ナチス時代の話です。

漫画って、わかりやすいし読みやすいので。これね、オトナになってからこそ読みたい手塚作品の最たるものですね。中学生の時に読んでいるけど、『はだしのゲン』などと一緒で、オトナになってから読むとさらにわかる典型的なやつです。

 

アドルフに告ぐ 1

アドルフに告ぐ 1

 

あの鉤十字が世界でなぜあそこまで神経質に捉えているのか、知らないままに世界に飛び出しては恥をかきます。ぜひとも知っておきましょう、歴史! 

 

とまあ、話を戻して。

 

でも実際に鉤十字のマークが登場すると、腑に落ちるほどストンと来る。

それが妙に不思議でした。

 

それはこの物語を描く上で必要なモチーフであるとよくわかる脚本だったし、そう飲み込ませる手法(「あくまで」コメディ)があったし、必要以上に多く登場させてはいないから、なんだと思います。

 

作り手の丁寧な、神経まで気を使った感性があるからこそ成り立ち、大丈夫なんだなあという。結構ギリギリのラインだとは思いました。

 

実はこの作品、2016年に一度別のところで上演された作品であり、連日評判を呼んで特に終盤では満員御礼だったそう。そして今回、徹底的なリメイクが行われ、ブラッシュアップされた作品なんだそうです。

前作を私は残念ながら鑑賞はできていませんが、本作がそこから作り込まれて作り込まれて、汗の染み込んだ作品であることは強く感じました。

 

どうやったって、私たちは現実から逃れられない。

そんなとき、シビアにシュールに向き合えば向き合うほど、笑ってしまうことが起きてしまう、これがまた現実なのである。

 

個人的にはそんな感想を持ちました。

 

(それはここから以下、ネタバレを含みます)

 

 

 

 

若き男女の愛は、若ければ若いほど燃えに燃える。

それは、青春時代に恋愛を体験して過ごした私たちならば経験のあることのひとつかもしれません。

 

そんなある意味「盲目」になった若い男女が、必死に生き、大事なものを守ろうとする姿は、とりあえず美しいことこの上ないんですよね。

でもそれって、とりあえず、なんですよね。

 

本作の主役2人は、最後は命をかけてゲシュタポに対抗し、亡命を図ります。

実はこの亡命は、近所や友人たちの興奮冷めやらぬ支援などもあり成功するのですが、ときは流れて1945年を迎えた頃には2人は別れているというのが筋書きです。

やっぱり終わるよね、若い日の情熱ってさ。みんなもあるでしょう、まるで命をかけたほどの恋が、今はもう過去の記憶のひとつにしかなってないとか。

これがまあ、良いんだ〜〜〜!(私の語彙力のなさよ)

 

そこであえて上手に結ばれないというのも、とてつもなくリアリティを帯びたアイロニーで最高でした。

最後のオチ(終戦後なので逆に主役のゲシュタポの男がナチス狩りの時代を生きることになる)部分すら、パーフェクトな面白さ。すんげーよ。

 

上から目線みたいで申し訳ないのですがよく、本当によくできた作品です。ここに到るまでの役者の皆様の練習量のことを思うと、さらに眩暈がしそうなほど。この作品、そもそも圧倒的に長いし。

 

熱量と、笑いと、必死な思い。

そこに歴史の重みを上手にフィットさせ、ときに泣かせに来る。

(特に幼馴染の冴えないユダヤ人がヒロインに告白するシーンなんて、多分俳優さんよりも私のほうが多く涙が出ていたレベルに泣いていた)

 

このバランス感覚の良さは、なかなか無い。

すごすぎる。鳥肌が立つ。

 

愛して、愛されて、だから嘘をついて、つかれて。そんな人間の感情の機微、そして世界平和的な漠然としたものへの大きな感情もあるし、作品への愛も大きくて、とにかくいっぱいの質量に満ち満ちた作品です。ぎゅっと詰まってる。愛とゆらぎと想いが。

 

素晴らしい、ひたすらにナイスな作品でした。

実はこのブログを書いている日が最終公演となるのですが、今からでも恵比寿に行って走ってチケットを買ってくださいませ。

 

後悔はしないはずです、本当に良い作品でした。

ちなみに印象的で最も忘れられないのは、執事・アルフレッド役の矢吹ジャンプ(ファルスシアター)さん。演技が特にうまいなあと思ったのは、ヒロインの母親・レア役の前田綾香(トツゲキ倶楽部)さんです。

 

 

そして、主演の斉藤コータ(コメディユニット磯川家)さんの熱量がすごい。

あの人の言い間違いすら笑いに変わる!

調べたところ、主演予定だった人の代打でもあるそうなのですが、この人がやったからこそのバランス感覚の良い部分はかなりあったはずだと感じました。特に笑い、うますぎる〜〜〜!

 

そして久々に触発されてしまって、私も演劇やりたいなあと感じました次第です。2019年、舞台に立つ側でもちょっとやりたいことができたので、色々模索してみます。

 

良いきっかけに感謝、

そしてたっぷりと笑わせてくれてありがとうございました!

 

 

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